甘いお話?
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 
 



それはもうもう、暴れん坊だった夏に引き続き、
この秋もなかなかのくせ者で。
太平洋高気圧がいつまでも元気なものだから、
地域によっては延々と残暑が引かぬわ、
寄って来る台風にエネルギーを補給し続けるわ。

 「九月は週末に必ずと言っていいほど、
  何かしら大荒れ要素が襲い来てましたものねぇ。」

そんなまでの気候の不安定さから、
その年のお世話や努力の結実を収穫する季節だというに、
選りにも選ってその直前で何てことするのとばかり、
この乱脈な悪天候や雨風の乱暴さが、
心底恨めしかったお宅も少なくはなかったに違いなく。
梨やぶどう、リンゴにみかんといったこれからが旬という果実は、
花や実へと養分を供給する葉が
強烈な陽で枯れてしまったり、
実の幼生自体が焼けたようになったりと、
そりゃあもうもう泣くに泣けない被害も多く。
これも秋の代表である栗も、
実の結実を前に雨が降らなくて案じられた地域が
京阪神には特に多かったものの。
何とかぎりぎりで降ったので、
実の大きさはやや小ぶりながら、
甘くて美味しいのが収穫されつつあるそうで。

 「なので、
  こうして美味しいケーキやスィーツも食べられる、とvv」
 「そうそうvv」
 「………vv(頷、頷)」

昨今は素材にこだわるパティシエやお店も増えて、
季節の風味を押し出すものには、
美味しい旬を大事にする意味もあってのこと、
国産を使っておりますと謳っているものが少なくなく。
なので余計に、
野菜や果物がお高いと、そういう美味しいものへも
色々と響くんでないかいと案じる辺りは、

 『普通の女子高生じゃあないのがありありしとらんか、お前たち。』

なぞと、校医のせんせえ辺りが呆れたそうで。

 「せんせえったら女子高生をバカにして。」
 「いやいや、ヘイさん何もそこまでは、」

兵庫さんも言ってませんてと、
器用な問題の擦り替えへこそ苦笑を見せた七郎次が
小さな銀のフォークですくったのが、イチジクとカシスのムースなら、
常に凛然としている頬を今だけ微妙に緩ませて、
久蔵が堪能しているのがモンブラン。
そして、柿のジャムをまとわせたロールケーキに舌鼓を打った平八が、
うんうんともっともらしく頷きつつ、
やはり“ふふーvv”と最終的にはご機嫌さんなお顔になっており。
それ自体が繊細でちょっとしたアクセサリのようなフォークを、
陶器のように純白な手の先、
お手入れも完璧な指先が操る様も優美なら。
それぞれに愛らしいお口へと含んだ
生クリームやしっとりスポンジのやさしさを
そっとそっと味わってのち。
甘いの繊細なの、なめらかなの、
口溶けのあとに広がる香りの、
品のいいことと言ったら…などなどと。
こうで ああで、そうそう、でしょう?と
能弁な方の平八や七郎次までもが、
少ない語彙でも十分伝わる会話の甘さのほうへも
その頬をまろやかにほころばせており。
何という話題を取り沙汰してもないうちから、
揃って和やか嫋やかな麗しい笑顔になっている辺り、

  いつもああいうお顔で、
  大人しくしておってくれれば罪もないものを、と。

保護者の皆様もきっと、
そりゃあしみじみ そうとお思いになられたにちまいなく。
彼女らが微笑いさざめくテーブルの置かれたフロアは、
曇りひとつない大きな窓が幾つか居並んでいるリビングで。
大窓の傍らへ、日よけも兼ねて寄り添うスズカケも、
そろそろその葉が落ちる頃合い。
それを偲ばせるよな
ほんのりと甘い茜を滲ませた陽が照らすお庭を眺めていた
お嬢様がただった……のだけれども。

 「それで、
  こんな美味しいスィーツを秋のフェアへ予定していなさる
  ホテルJのホテイチ・カフェが、
  素材の納入業者さんに揺さぶられてるんですって?」

 「………。(頷、頷)」

まあまあなんて無粋なことをと、
可憐な口元へ
ロココ調だろか優雅なデザインのティーカップを運びつつ、
ひどく憤慨しておいでの七郎次と平八であり。
正確には、
同じ納入業者とかかわりのある、
よそのチェーン店の幹部格の存在が、
自分のところの目玉商品として置かせてくれぬかと
執拗に言って来ており。
そういう話はホテル全体の問題だから、支配人を通してくれと
どこにも不備はなかろう説明をしたにもかかわらず、
聴いてくれないのなら、必要だろう素材を買い占めてやるとか、
店の周辺、ロビーを徘徊してやってもいいなぞと、
何とも幼稚な脅しを仄めかしたりもしているのだとか。

 「一応は母に、」
 「そっか、おばさまが対処することだものね。」

久蔵の母上は、ホテルJの総支配人でもあり、
事業的な対外交渉はその全てへ眸を通し、事情に通じてもおいで。

 「問題はないとは思うのだがな。」
 「でも何か、幼稚なのが却って気になりますよね。」

相手が大きなホテルだというに、
よって弁護士などもきっちり揃えており、
こういうケースへの対処も速やかに運べる態勢は万全だと、
火を見るより明らかだってのに。

 「相手も同じレベルのプロとは限らない場合もありますしねぇ。」

素人ほど何をしでかすかの予測も立たなきゃ、
後先考えてない場合も多々あって。
逮捕もされるだろ、厳罰も降るだろう“結果”が下されるのは判るとして、
だが、サービス業の場合は特に、
実際の被害が出てからでは何もかも遅すぎる。

 「コトが起こってからでしか警察が動けないのは判りますけどね。」
 「民事不介入ですね。」
 「脅迫状でも来ればともかく、
  曖昧な言い回しで囁かれたという程度では、
  影響力の大きな場所なら見回りを増やしてくれるくらいですものね。」
 「納入業者への働きかけも辞さぬなんて言ったというのも性が悪い。」
 「………。(頷、頷)」

微妙に大きめのチェーン店の本部、
経営関係の幹部格の人物が、そういうことへも口出ししている。
それでドラスティックな進化を続けられて、
いい結果が出てるお店も確かにあるんでしょうけれど、
まずは自分の身内への一喝であり、
よそへの恫喝から始めてどうしますかと、
由々しき事態へ“む〜ん”と小難しいお顔になったお嬢様がただったのへ、

 「…そっから先は、
  わたしどもへお任せくださいませね、お嬢様がた。」

すっと、カーテンを緞帳みたいに見立てての、
その陰から姿を現せた人影が一つ。
それは物慣れた物腰とお声で、そんな風に水を差したその人こそ。

 「…結婚屋。」
 「良親様?」
 「あ、丹羽さんだ。
  こないだは◇◇ゲートへのパスコードどうもでした。」

以上、意外そうな温度が高い順。
お嬢様がたが見せた反応が各々微妙に違ったそのお人こそ、
やはり“転生人”であり、彼らの知人でもあり、
ホテルJご用達の
ブライダルチェーン“ポンパドール”の御曹司でありながら、
久蔵お嬢様専属のドライバーもたまに引き受ける護衛要員、
どんだけの肩書をお持ちかというほど、
多彩な才と、ついでに謎も多き不思議な男性、
丹羽良親という御仁であり。

 「今日はどの丹羽さんですか?」
 「いい質問だ、ひなげしさん。」
 「つか、ヘイさん、何とかゲートってなに? 何の話?」

うん、ちょっとねと言葉を濁したのは
専門的な代物だったか、それともヤバイなにかだったか…。
そんな白百合さんとの会話をくすすと見守っていた丹羽さん、

 「今日は、ヒサコさまのボディガードですよ。
  危険なことへ首を突っ込まれないよう、
  大旦那様のマロ様と、
  あと間接的にですが、どっかの警部補殿からも
  眸を光らせてておくれと言われてますもんで。」

 「………っ☆」 × 3

あらまあと呆気にとられるお嬢様がたを前に、
にんまり笑ってから、
なめらかな所作にてどうぞとテーブルへすべらせた蓋つきのトレイ。
銀のドーム状の、取っ手つきの蓋を退ければ、
そこには各種フルーツで作り分けたらしい7色のソースつき、
淡雪みたいなレアチーズケーキが
とろんとろんのなめらかさで並んでおいでで、

 「これが話題のお店の最終秘密ケーキだそうなので、
  どうぞご堪能くださいませ。」

あ、良親さんたら、秘密兵器とかけましたね。
おやじギャグ〜〜〜vv
………(頷、頷)と、
囃し立てるお嬢様がたへ、

 「通じたお人たちに言われたかありません。」

ふふんとお澄ましして、
軽く流してしまってのそれから。

 「その一件に関しては、奥様と関係部署が動いておりますし、
  直接の暴挙が起きぬよう、
  ウチのスタッフが午前と午後の交替制で張ってます。」

流通経路はそれこそ、
一部の業者による卸や子会社への無茶ぶりを監視するための、
公正取引ほにゃららっていう部署がありますからね。
漫然と見ているようでは手柄も見失いますよという
匿名の告げ口をしてありますから、
明日にでも手入れが入るはずですしと。

 「目の付けどころは確かに悪くないです。
  ホテルJなんて大御所へそんな無茶を言うからには、
  少しずつ積み上げたスキルというか、
  成功した格好の前科もありと見ていいでしょうからね。」

ただし、と、ここでわざとらしくも咳払いをし、

 「素人ポイと仰せでしたが、
  だからこそ、思わぬ大暴れや、死なばもろともなんて破れかぶれを、
  しかねないのもまた素人さんです。」

皆さんもまた、
計画的じゃあないとか、稚拙だとかいう意味じゃなく、
思い切ったことをしかねないから危険という把握だったようですが、

 「だったら尚更、
  そんな危険なことへ手を出そうと思うのは辞めて下さいな。」

 「う…っ。」 × 3

確かに、ヒサコ様の特殊警棒の扱いようはプロ級ですし、
身の軽さは、どこのスパイですかという とんでもなさだ。
おシチちゃんの長柄の捌き方も、
かつてを彷彿とさせる身ごなしで鮮やかです。
ひなげしさんのPCやネットを通じての対処も恐ろしいほど的確で、
しかも後処理も万全と来て、
これまでは何とかなって来ましたが。

 「よろしいか? 悪党の世界にも情報網ってのはあるんですよ?」
 「え?」
 「それって…。」
 「………?」

謎めいた潰されようをしたとか、
妙な顛末で終息した悪事ってのは、
大っぴらに表沙汰にはならずとも、
そっちの世界ではきっちりとマークされてます。
見出しをつけられて、
何かあれば引き出されるようにチェックが入ってる。
一体どんな関係者が尻尾を捕まれたんだろ、
どんな経緯で計画がばれた? アジトが割れた?と、
そういったことをコツコツ調べる暇な奴もいなくはないんですよ、と。
それこそ内緒の計画でも語るかのように、
3人のお嬢さんそれぞれのお顔をしっかと見回し、

 「全然関係ないことでマークされたり、
  用心深い手合いが紛れてて、
  何かコトが起きたとき、
  あんたらがあの時のと
  あっさり目串を刺されたりだってしかねない。」

いいですか? もはやあなたがたは
素人さんとは言い切れないほどスキルを積み過ぎてるんですよと。
微妙に“そっちの世界”に通じておいでの彼からの説得という格好で、
何とか釘を刺せないかと思ったらしい誰か様たちだったようですが。

 「…だったら、覆面が要りますね。」
 「ですねぇ。あと手套も用意せねば。」
 「………。(頷、頷)」

指紋の登録記録は
どこのデータベースにもなかろうからって油断しまくりでしたものね。
そうそう。
アメリカだと学校に入学するときとかに
登録させるケースもあるんですって。
勿論、誰にでも閲覧できる資料じゃあないですが、
身元不明の遺体が出たときや
犯罪の現場から出た指紋とかへの照合には使われてるそうで…などと、
意気揚々、物騒なお喋りが始まったものだから、

 “………あれあれぇ?”

これはさすが、あの勘兵衛様が手古摺るワケだよと、
内心で冷や汗かいてた誰か様。
さてとて、丹羽さんこと良親様は、
お嬢様たちの暴走へ
歯止めがかけられる最終兵器の役を果たせるかどうか、
どうです、私と賭けをしませんか?(おいこら





     〜Fine〜  13.10.09.


  *台風が来てますが、
   ここいらには強い風が吹いてたくらいしか、
   今のところは影響出てません。
   明日はフェーン現象で暑くなるそうですが、
   今更ですしね。(ふ〜んだ#)

  *そしてお嬢様たちを止めさせられるか大作戦の秘密兵器、
   堂々の…と言いつつ、
   時々 助っ人もしていた良親様の投入ですが、
   やはり手ごわいです、お嬢様ズ。(笑)
   優秀な助手か参謀として、
   逆に引っ張り込まれないかが心配です。(う〜ん)
   もはや打つ手はないのか、彼らに救いの神はいないのか…。

ご感想はこちらへvv めーるふぉーむvv

メルフォへのレスもこちらにvv


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